「うちのチームは風通しがいい」。
「部下の話はちゃんと聞いているほうだと思う」。
そう思っている上司ほど、部下から見た姿とのあいだに、本人が気づいていないずれを抱えていることがあります。
上司は「相談しやすい雰囲気をつくっている」つもりでも、部下は「忙しそうで声をかけにくい」と感じている。
上司は「任せている」つもりでも、部下は「放っておかれている」と受け取っている。
こうしたずれは、悪意や能力の問題ではありません。
立場が上になるほど、自分についての正直な声が届きにくくなるという、組織の構造から生まれます。
この記事では、上司の自己評価と部下から見た姿がずれる理由、ずれが出やすい場面、ずれを知るための具体的な方法、そして聞いた声を受け止めて行動を変えるまでの手順を、会話例と一緒に紹介します。
・ずれは「相談のしやすさ」「任せ方」「指摘の仕方」「話の聞き方」「評価の公平さ」の場面で出やすい
・ずれを知る方法は、1on1で直接聞く・匿名で聞く・第三者に聞いてもらう・自分の会話を振り返るの4つ
・聞いた声は、言い訳をせずに受け取り、1つだけ選んで変え、変えたことを部下に伝えるところまでやって初めて意味を持つ
1. 上司の自己評価と部下から見た姿がずれる3つの理由

上司の自己評価と、部下から見た上司の姿がずれるのには、はっきりした理由があります。
どれも特定の人の性格の問題ではなく、上司という立場にいれば誰にでも起こることです。
- 立場の差で本音が届かない:評価をする人に、評価を下げかねない本音は言いにくい
- 自分は意図で、他人は行動で見る:上司は「つもり」で自分を評価し、部下は「見えた行動」で上司を評価する
- うまくいっている情報だけが上がる:問題や不満は、上司に届く前に途中で薄まる
評価をする人には、本音を言いにくい
部下にとって上司は、仕事を割り振り、評価をつけ、ときには異動や昇格にも関わる相手です。
その相手に「あの言い方は正直きつかったです」と伝えるのは、関係が悪くなるかもしれない、評価に響くかもしれないという不安を伴います。
だから部下は、多少引っかかることがあっても「大丈夫です」「特にないです」と答えます。
上司はその言葉をそのまま受け取り、「問題はない」と判断してしまいます。
上司は「つもり」で、部下は「見えた行動」で評価する
人は自分のことを、頭の中にある意図で評価しがちです。
「厳しく言ったのは、期待しているからだ」「口を出さないのは、信頼して任せているからだ」と、上司は自分の行動の理由を知っています。
一方で部下に見えるのは、行動だけです。
厳しい口調、返ってこない返信、会議で遮られた発言。
部下は上司の意図ではなく、目に見えた行動から上司の人物像をつくります。
このくせを知らないまま自己評価をすると、「自分はちゃんとやっている」という結論になりやすいのです。
悪い知らせほど、上司に届く前に薄まる
チームの中で起きている不満やつまずきは、上司のところに届くまでに何人かを経由します。
そのたびに「わざわざ言うほどでもない」「もう少し様子を見よう」と、話は少しずつ小さくなります。
結果として、上司のところには「順調です」という報告が多く集まり、自分の関わり方への違和感はほとんど届きません。
上司が「最近、特に問題はない」と感じているときほど、届いていない声があると考えておくほうが安全です。
2. ギャップが出やすい5つの場面

上司のつもりと部下の受け取り方がずれやすい場面には、共通点があります。
次の表は、よくある5つの場面を「上司のつもり」と「部下の受け取り方」で並べたものです。
| 場面 | 上司のつもり | 部下の受け取り方 |
| 相談のしやすさ | 「いつでも声をかけて」と言っている | いつも忙しそうで、話しかけるタイミングがない |
| 任せ方 | 信頼して任せている | ゴールも判断の基準も分からず、放っておかれている |
| 指摘の仕方 | 期待しているから、はっきり伝えている | 人前で責められた、否定された |
| 話の聞き方 | 最後まで話を聞いている | 途中で結論を言われる、パソコンを見ながら聞いている |
| 評価の公平さ | 全員を同じ基準で見ている | 話しかけやすい人や目立つ人ばかり見ている |
どの場面でも、上司の意図そのものは間違っていません。
ずれが生まれるのは、意図が行動として相手に届く途中です。
「いつでも声をかけて」は、言うだけでは届かない
「何かあったら、いつでも声をかけて」と言っている上司は多いでしょう。
けれども部下から見ると、上司は会議が続き、席にいても画面に向かっていて、声をかけていい「いつでも」が見当たりません。
相談しやすさは、言葉ではなく、上司の側から時間を空けて声をかける行動で伝わります。
「任せている」と「放っておく」は、部下から見ると区別がつかない
任せるときにゴールと判断の基準、困ったときの相談先を伝えていなければ、部下には「放っておかれている」と映ります。
「指摘の仕方」の場面でずれを小さくする伝え方は、部下に伝わる「褒め方」と「注意の仕方」で具体的に紹介しています。
3. 部下から見た自分を知る4つの方法

ギャップは、上司が一人で考えていても見えてきません。
部下から見た自分を知るには、部下の声を集める仕組みを自分からつくる必要があります。
代表的な方法は次の4つです。
- 1on1で直接聞く:小さく具体的な質問で、上司の関わり方について聞く
- 匿名で聞く:無記名のアンケートや360度評価で、言いにくいことを書いてもらう
- 第三者に聞いてもらう:人事や外部のコーチなど、利害のない人に部下の声を聞いてもらう
- 自分の会話を振り返る:会議や1on1で、自分が話していた時間や遮った回数を振り返る
1on1で直接聞くときは、質問を小さくする
「私に何か直してほしいところはある?」と聞いても、ほとんどの部下は「特にありません」と答えます。
範囲が広く、答えると上司を否定することになる質問は、答えにくいからです。
質問は、場面を絞って、答えやすい形にします。
・「相談しようと思ったけど、やめておいたことはある?」
・「私の指示で、分かりにくかったものを1つ挙げるとしたら何?」
・「私がもう少しこうしてくれたら仕事がしやすい、ということを1つだけ教えて」
「1つだけ」と数を区切ると、部下は全部を言わなくていいと感じ、答えやすくなります。
会話の例を見てみましょう。
部下:「うーん……先週、見積もりの件で迷ったときに、ちょっとありました」
上司:「そうだったんだ。そのとき、声をかけにくかった理由があれば教えてほしい」
部下:「打ち合わせが続いていたので、邪魔しちゃ悪いかなと思って」
上司:「教えてくれてありがとう。それなら、毎日夕方の15分は相談の時間として空けておくようにするね」
1on1で使える質問は、1on1で話すことがないときの質問集でも場面別に紹介しています。
匿名で聞くときは、自由記述を1問入れる
直接は言いにくいことを知るには、無記名のアンケートが役立ちます。
「相談しやすさ」「指示の分かりやすさ」などを5段階で答えてもらうだけでなく、「上司に続けてほしいこと」「やめてほしいこと」を自由に書く欄を1つ入れておくと、具体的な行動が見えてきます。
ただし、少人数のチームでは、書き方や内容で誰が書いたかが分かってしまうことがあります。
人数が少ないときは、人事など上司以外の人に集計してもらい、上司には要点だけを渡すようにすると、部下が安心して書けます。
第三者に聞いてもらうと、本音が出やすい
評価に関わらない第三者が相手だと、部下は上司に直接言えないことも話しやすくなります。
人事担当者が面談の中で聞く、外部のコーチが部下との1on1を受け持ち、本人の了承を得たうえで上司の関わり方への声を伝える、といった方法があります。
外部のコーチに1on1を任せる方法は、1on1を外部のコーチに任せるという選択肢で詳しく紹介しています。
自分の会話を振り返る
部下に聞く前に、自分でできることもあります。
本人や参加者の了承を得たうえで会議や1on1を録音し、あとで聞き直してみると、自分が話している時間の長さや、部下の話を途中で引き取っている場面に気づくことがあります。
録音が難しければ、1on1のあとに「今日、自分は何割くらい話していたか」「部下の話を遮った場面はあったか」をメモするだけでも、自分の行動を外から見る練習になります。
4. 聞いた声を受け止めて、行動を変える4つの手順

部下から見た自分を知る方法よりも大事なのは、聞いた声をどう受け止めるかです。
せっかく勇気を出して伝えた声が、言い訳や不機嫌な顔で返されると、部下は二度と本音を言わなくなります。
- まず礼を言う:内容に納得できなくても、伝えてくれたこと自体にお礼を言う
- 言い訳をしない:「それは違う」「あれには理由があって」と返さず、具体的な場面を聞く
- 1つだけ選んで変える:全部を直そうとせず、一番影響の大きいものを1つ選ぶ
- 変えたことを伝える:「この前の話を受けて、こう変えてみた」と部下に言葉で伝える
言い訳をすると、次の声は届かなくなる
「会議で発言を遮られるのがつらい」と言われたとき、「時間が押していたから仕方なかった」と返したくなるかもしれません。
理由があったのは事実でも、部下にとっては「言っても聞いてもらえない」という経験になります。
返すべきなのは理由ではなく、「どの会議のどの場面だったか、教えてもらえる?」という質問です。
声を受け止める上司の姿を見せることが、次の本音を引き出す一番の近道です。
変えたことは、言葉にして伝える
行動を変えても、部下がそれに気づくとは限りません。
「この前話してくれた件で、夕方に相談の時間を空けるようにしてみた。使いにくいところがあったら、また教えてほしい」と一言添えると、部下は「話したことで実際に変わった」と感じられます。
この経験が積み重なると、部下は上司に本音を伝えることを、意味のあることだと思えるようになります。
5. ギャップを小さく保つ日々の習慣
ギャップは一度知って直せば終わり、というものではありません。
チームのメンバーが変わり、仕事の状況が変われば、新しいずれが生まれます。
日々の習慣として、次の3つを続けておくと、ずれが大きくなる前に気づけます。
- 1on1の最後に1問だけ自分のことを聞く:「今日の私の関わり方で、やりにくかったことはある?」
- 自分から先に弱みを見せる:「私は話を急ぎすぎるくせがあるから、気づいたら言ってほしい」と先に伝えておく
- 半年に一度は匿名で聞く:同じ質問で聞き続けると、変化が比べられる
特に2つ目の「自分から先に弱みを見せる」は効果が大きい習慣です。
上司が自分の苦手を先に言葉にしておくと、部下は「そのことなら言ってもいいんだ」と分かり、指摘のハードルが下がります。
完璧な上司を演じるよりも、直そうとしている上司のほうが、部下は本音を伝えやすくなります。
よくある質問
Q. 部下に「上司として直してほしいところは?」と聞いても、何も出てきません。
質問の範囲が広すぎるか、答えると上司を否定することになるため答えにくいのが原因です。
「会議で」「指示の出し方で」と場面を絞り、「1つだけ」と数を区切って聞くと答えやすくなります。
それでも出てこない場合は、関係ができていない段階かもしれません。
まずは上司が自分の弱みを先に話す、匿名のアンケートを使うなど、言いやすい形から始めてみてください。
Q. 部下の声が事実と違うと感じたときは、訂正したほうがいいですか?
その場では訂正せず、まず受け取ることをおすすめします。
部下がそう感じたこと自体は事実であり、上司の意図とは別に、部下にはそう見えていたということです。
誤解が仕事に影響している場合は、後日あらためて「この前の話、こういう意図だったんだけど、伝わりにくかったね」と、自分の伝え方の問題として補足すると関係を崩さずに済みます。
Q. 360度評価を入れれば、ギャップは分かりますか?
360度評価は、上司が自分では気づけない面を知る手がかりになります。
ただし、結果を受け取ったあとに何を変えるかを決めて、部下にその変化を伝えるところまでやらなければ、評価をしただけで終わってしまいます。
点数よりも自由記述の内容に目を向け、変える行動を1つに絞ることが大切です。
Q. 管理職が多く、一人ひとりのギャップまで会社として見きれません。
上司のギャップに気づき、声を受け止めて行動を変える力は、知識として読むだけでは身につきにくく、実際の会話で練習することで変わります。
管理職同士でこの記事の質問を使ってロールプレイをする、研修で部下役からのフィードバックを受け取る練習をする、といった方法があります。
まとめ:ギャップは、聞きにいった上司にしか見えない
上司の自己評価と部下から見た姿がずれるのは、立場の差と、自分を意図で・他人を行動で評価するくせによる、誰にでも起こることです。
ずれは放っておいても届かないので、1on1で小さく聞く、匿名で聞く、第三者に聞いてもらう、自分の会話を振り返るといった方法で、自分から聞きにいく必要があります。
そして聞いた声は、礼を言い、言い訳をせず、1つ選んで変え、変えたことを伝えるところまでやって初めて意味を持ちます。
次の1on1の最後に、「私に相談しようと思ったけど、やめておいたことはある?」と1問だけ聞いてみてください。
FIRST COACHでは、管理職が部下との会話で使えるコーチングを、実践を通して身につける法人向けの研修を行っています。
個人でコーチングの技術を学びたい方は、まずは無料体験からお試しください。



