「褒めたつもりなのに、部下の反応が薄い」。
「注意したら、次の日から目を合わせてくれなくなった」。
管理職になると、こうした「伝え方」の悩みが一気に増えます。
原因の多くは言葉選びのセンスではなく、褒めるときも注意するときも「人」を見て話していることにあります。
この記事では、褒め方と注意の仕方を「人ではなく行動」「事実→影響→期待」という同じ型でそろえる方法を、場面別の言い換え例と一緒に紹介します。
パワハラにならない線引きと、注意した後の関係の戻し方まで、明日の会話でそのまま使える形でまとめました。
・伝える順番は「事実→影響→期待」。何をしたか、それがどう効いたか、次にどうしてほしいかを具体的に言う
・人格を否定しない、人前で叱らない、感情をぶつけないことが、パワハラにならないための基本の線引き
・注意した後は、次に良い行動が見えたときにすぐ伝えることで関係が戻る
1. 褒め言葉も注意も伝わらないのは「人」を見ているから

伝わらない褒め方と注意の仕方には、共通点があります。
どちらも、部下の行動ではなく、部下という人を評価する言葉になっていることです。
「いつも頼りになるね」「さすがだね」という褒め言葉は、言われた側はうれしい反面、何が良かったのかが分かりません。
そのため、同じ行動を次も繰り返そうとは思いにくくなります。
注意の場面では、もっと深刻です。
「やる気あるの?」「君はいつもだらしない」という言葉は、行動ではなく人柄への評価として届きます。
人柄を否定された部下は、直すべき行動を考える前に、自分を守ることで頭がいっぱいになります。
| 比べる点 | 人を評価する伝え方 | 行動を伝える伝え方 |
| 褒めるとき | 「いつも頼りになるね」 | 「昨日の資料、結論が1枚目にあって会議が早く進んだよ」 |
| 注意するとき | 「君はだらしない」 | 「今週、報告書の提出が2回締切を過ぎていたね」 |
| 部下に残るもの | 気分(うれしい・傷ついた) | 次に何をすればいいか |
行動を言葉にすると、褒め言葉は「次もこうしよう」という手がかりになり、注意は「ここを直せばいい」という具体的な課題になります。
褒めるのも注意するのも、目的は同じ「次の行動を良くすること」です。
だからこそ、両方を同じ型で伝えるのが一番ぶれません。
2. 伝わるフィードバックの型「事実→影響→期待」

褒めるときも注意するときも、「事実→影響→期待」の順で伝えると、部下が受け取りやすくなります。
この順番には、それぞれ意味があります。
- 事実:上司が実際に見た・聞いた行動を、そのまま言葉にする。「いつも」「全然」などの言い方は使わない
- 影響:その行動が、チームや顧客、仕事の進み方にどう効いたかを伝える
- 期待:次にどうしてほしいかを、具体的な行動で伝える。注意の場面では、本人の考えも聞く
事実は「見たまま」を言う
最初に事実を置くのは、部下と上司が同じ場面を思い浮かべるためです。
「最近ミスが多いよね」ではなく、「火曜の見積もりで、単価の桁が1つ違っていたね」と言います。
事実が具体的であるほど、部下は「何のことか」で迷わず、言い訳や反論も起きにくくなります。
影響は「なぜ大事か」を伝える
事実だけで終わると、部下は「だから何なのか」が分かりません。
「お客様が社内で検討しやすくなった」「先方に確認の電話をかけ直すことになった」と、行動の先にあった結果を伝えます。
影響を伝えると、褒め言葉には重みが生まれ、注意には納得が生まれます。
期待は「次の一回」に絞る
最後に、次にどうしてほしいかを伝えます。
「もっとしっかりして」では行動になりません。
「送る前に、金額の欄だけもう一度見てから出してほしい」と、次の一回でできる行動に絞ると、部下は動きやすくなります。
注意の場面では、期待を一方的に言うだけでなく、「どうすれば防げそう?」と本人に聞くと、自分で決めた行動として続きやすくなります。
問いかけ方の基本は、コーチングの基本スキル「聴く」「質問する」「伝える」活用法で詳しく紹介しています。
・褒めるときも注意するときも、この3つを同じ順番で言う
・注意の場面では、期待の前に「どうすれば防げそう?」と本人に聞く
3. 場面別の言い換え例(褒めるとき・注意するとき)
型が分かっても、実際の会話でとっさに言葉を変えるのは簡単ではありません。
ここでは、管理職がよく出会う場面ごとに、ありがちな言い方(NG)と、行動を伝える言い方(OK)を並べます。
褒めるときの言い換え例
褒めるときは、結果だけでなく、結果につながった工夫や過程を言葉にすると、次も同じ行動が出やすくなります。
| 場面 | NG | OK |
| 契約が取れた | 「すごいね、さすが」 | 「事前に先方の課題を3つ整理して行ったのが効いたね。あの準備のおかげで話が早く進んだと思う」 |
| 資料がよくできていた | 「いい資料だね」 | 「結論が1枚目にあったから、部長がすぐ判断できたよ。次の提案書もこの順番でいこう」 |
| 後輩の面倒を見ていた | 「面倒見がいいよね」 | 「新人の質問に、手を止めて画面を見ながら答えていたね。あれで新人が一人で作業できるようになってきている」 |
| 結果は出なかったが努力した | 「まあ、頑張ったからいいよ」 | 「今回は受注にならなかったけど、比較表を作って持って行ったのは良かった。次は何を変えたら届きそう?」 |
| トラブルに早く気づいた | 「助かったよ」 | 「納期のずれを前日のうちに報告してくれたから、お客様に先に連絡できた。早めの報告は本当に助かる」 |
褒める内容は、大きな成果でなくてかまいません。
報告が早かった、相手に確認してから進めた、といった日々の小さな行動ほど、言葉にして返す価値があります。
また、褒めるのは「その場」か「できるだけ早く」が基本です。
数週間後の評価面談でまとめて伝えても、部下はどの行動のことかを思い出せません。
注意するときの言い換え例
注意するときは、責める言葉を外し、事実と次の行動だけを残すのがポイントです。
| 場面 | NG | OK |
| 締切に遅れた | 「何回言ったら分かるの?」 | 「今週、報告書の提出が2回締切を過ぎていたね。集計が後ろの工程に回らなかった。何があったか聞かせてくれる?」 |
| 同じミスを繰り返した | 「どうしていつもそうなの」 | 「先月と同じ、宛先の確認漏れがあったね。送る前に確認する手順を一緒に決めておこうか」 |
| 報告がなかった | 「なんで黙ってたの?」 | 「お客様からの返事が遅れていたことを、今日初めて知ったよ。気づいた時点で一言もらえると、先に手が打てる」 |
| 会議で発言が強すぎた | 「君は協調性がないね」 | 「さっきの会議で、Aさんの話を途中で止めていたね。Aさんがそのあと黙ってしまった。次は最後まで聞いてから意見を言ってほしい」 |
| 指示と違うやり方をした | 「勝手なことしないで」 | 「手順書と違う順番で進めていたね。どうしてそうしたのか、まず理由を聞かせてほしい」 |
NGの言葉には、「いつも」「何回」「なんで」といった、相手を追い詰める言葉が入りがちです。
これらを外すだけでも、部下が身構えずに話を聞ける状態に近づきます。
また、指示と違うやり方をした場面のように、まず理由を聞くことも大切です。
部下なりの工夫だった場合、頭ごなしに注意すると、次から工夫そのものをしなくなってしまいます。
「褒めてから注意する」は使いどころに気をつける
「まず褒めて、次に注意して、最後にまた褒める」という伝え方を聞いたことがある方も多いと思います。
ただ、毎回この形で話すと、部下は「褒められたら、次は注意が来る」と身構えるようになります。
そうなると、本当に褒めたいときの言葉まで素直に届かなくなります。
褒めることと注意することは、できるだけ別の機会に、それぞれ「事実→影響→期待」で伝えるほうが、どちらの言葉もまっすぐ届きます。
4. パワハラにならない注意の線引き

注意することをためらう管理職の多くが、「パワハラと言われたらどうしよう」という不安を抱えています。
ですが、業務上必要な指導をすること自体は、管理職の大切な役割です。
問題になるのは、注意の「中身」ではなく、伝え方が業務に必要な範囲を超えてしまうことです。
厚生労働省も、職場のパワーハラスメントについて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導はこれに当たらないという考え方を示しています。
そのうえで、日々の注意で意識したい線引きは、次の4つです。
① 人格を否定しない
「だから君はダメなんだ」「社会人失格だ」といった言葉は、行動ではなく人そのものへの否定です。
注意の対象は、いつも行動に限ります。
「事実→影響→期待」の型を使えば、自然と人格に触れない言い方になります。
② 人前で叱らない
他の社員がいる場で注意されると、部下は内容より「恥をかかされた」という気持ちのほうを強く覚えます。
注意は、会議室や1on1など、1対1で話せる場所で行うのが基本です。
反対に、褒めることは人前でしてもかまいません。
「褒めるのは人前で、注意するのは1対1で」と覚えておくと迷いません。
③ 感情をぶつけない
強い怒りを感じたまま話すと、声が大きくなったり、言わなくていい言葉が出たりします。
カッとなったときは、すぐに注意せず、少し時間を置いてから話すほうが、結果的に伝わります。
大声で怒鳴る、机を叩く、長時間にわたって繰り返し責めるといった行為は、指導の範囲を超えていると受け取られやすい行為です。
④ 過去を蒸し返さない
「前もそうだったよね」「去年もあったよね」と過去の失敗を並べると、部下は今回の行動を直すことより、責められ続けていると感じます。
注意するのは、今回の事実だけにします。
同じミスが繰り返されている場合は、責めるためではなく、手順や仕組みを一緒に見直すために過去の経緯を確認します。
・人格を否定しない、人前で叱らない、感情をぶつけない、過去を蒸し返さない
・判断に迷うケースは一人で抱えず、社内の相談窓口や人事に早めに相談する
なお、個別のケースがパワハラに当たるかどうかは、状況によって判断が分かれます。
判断に迷う場合は、社内の相談窓口や人事、専門家に相談するようにしてください。
5. 注意した後に関係を戻す方法
注意の効果は、注意したその場ではなく、その後の数日の関わり方で決まります。
注意した後に上司が距離を置いてしまうと、部下は「嫌われた」「評価が下がった」と受け取り、報告や相談をためらうようになります。
注意の最後に「期待している」ことを伝える
注意を終えるときは、「この点が直れば、もっと任せられる仕事が増える」と、期待しているから伝えたことを言葉にします。
部下は、注意の理由が「ダメだから」ではなく「期待しているから」だと分かると、前向きに受け止めやすくなります。
次の日に、いつも通り声をかける
注意した翌日は、上司のほうから普段どおりに話しかけます。
「おはよう」「昨日の件、どう進めることにした?」といった短い声かけで十分です。
上司の態度が変わらないことが、「注意されたのは行動であって、自分ではない」という安心につながります。
良い行動が見えたら、すぐに褒める
関係を戻すうえで最も効くのは、注意した行動が改善されたときに、すぐにそれを言葉にすることです。
「今日の報告、締切の前日に出してくれたね。おかげで集計に余裕ができた」と、ここでも「事実→影響→期待」で伝えます。
注意と褒め言葉が同じ型でつながることで、部下は「上司は自分の行動をちゃんと見てくれている」と感じられるようになります。
| タイミング | 上司がすること |
| 注意の最後 | 「期待しているから伝えた」と言葉にする |
| 翌日 | 上司から普段どおりに声をかける。態度を変えない |
| 改善が見えたとき | その場で「事実→影響→期待」で褒める |
| 次の1on1 | 「あの後どうだった?」と本人の感じ方を聞く |
1on1の時間を、注意した後の振り返りに使うのも効果的です。
1on1での会話の進め方は、1on1ミーティングの進め方(無料テンプレ付)も参考にしてください。
よくある質問
褒めるところが見つからない部下には、どうすればいいですか?
成果ではなく、行動に目を向けると褒める点は見つかります。
「報告が早かった」「分からないことをそのままにせず質問してきた」など、当たり前に見える行動も、言葉にして返す価値があります。
まずは1週間、部下の行動を1日1つ見つけて伝えることから始めてみてください。
注意すると、部下が落ち込んだり辞めたりしないか心配です。
注意をしないままにすると、問題が大きくなってから強く言わざるを得なくなり、かえって関係がこじれやすくなります。
小さいうちに、1対1で、行動だけを伝えるほうが、部下の負担は小さく済みます。
そのうえで、注意した後に普段どおり声をかけ、改善が見えたらすぐに褒めることで、関係は戻せます。
年上の部下にも同じ伝え方でいいですか?
基本の型は同じで問題ありません。
「事実→影響→期待」は相手の人柄に触れない伝え方なので、年齢や経験に関係なく使えます。
年上の部下には、期待を伝える前に「〇〇さんはどう考えますか」と意見を聞く比重を大きくすると、受け入れてもらいやすくなります。
チャットやメールで注意してもいいですか?
短い連絡や事実の確認ならチャットでもかまいませんが、注意はできるだけ顔を見て話すのがおすすめです。
文字だけでは表情や声のトーンが伝わらず、同じ言葉でも冷たく受け取られやすいからです。
リモートワークの場合は、ビデオ通話で1対1の時間を取って伝えましょう。
まとめ:褒めるのも注意するのも「行動」を言葉にする
褒め方と注意の仕方は、別々の技術ではありません。
どちらも、部下という人ではなく、部下の行動を「事実→影響→期待」の順で言葉にするという同じ型で伝えられます。
人格を否定せず、人前で叱らず、注意した後は普段どおりに声をかけて、良い行動が見えたらすぐに褒める。
この繰り返しが、関係を壊さずに部下の行動を変えていきます。
管理職としての関わり方全体を見直したい方は、管理職のためのコーチング入門もあわせてご覧ください。
組織で管理職の伝え方をそろえたい場合は、FIRST COACHの企業向けコーチングをご相談ください。
管理職向けのコーチング研修や1on1研修を通じて、部下への伝え方を組織の状況に合わせて整えるお手伝いをしています。



