コラム

介護現場のリーダー育成|職員が辞めない面談と声かけのコツ

「介護の仕事は好きだけど、この職場ではもう続けられない」。

職員が辞めるとき、理由として口にされるのは、仕事のきつさよりも人との関係であることが少なくありません。

そして職員にとって一番身近な「職場の人間関係」をつくっているのが、フロアやユニットのリーダーです。

介護労働安定センターが毎年行っている「介護労働実態調査」でも、前の職場を辞めた理由として「職場の人間関係」が上位に挙がり続けています。

ところが多くの施設では、リーダーは「現場で一番仕事ができる人」が選ばれ、面談や声かけのやり方を教わらないまま任されています。

この記事では、介護現場のリーダーがつまずく理由、リーダーに最初に渡すべき役割、職員が辞めない面談の進め方、そして毎日の声かけを、現場の場面と会話例で紹介します。

この記事の要点・介護現場のリーダーは、現場で一番できる人が選ばれ、面談や声かけを教わらないまま任されるためにつまずきやすい
・リーダーに最初に渡す役割は「声をかける」「話を聞く」「任せる」「上とつなぐ」の4つ。介助の手本になることより先に渡す
・面談は「時間と場所を決める→最近の様子を聞く→困りごとを1つ聞く→次にやることを1つ決める」の順で、15分でも十分に効果がある
・毎日の声かけは、出勤時・申し送り・ミスのあと・うまくいったとき・「辞めたい」と言われたときの5つの場面で型を持っておく

1. 介護現場のリーダーがつまずく3つの理由

現場で一番できる人が選ばれる・教わらないまま任される・上と現場の板挟みになる、の3つの理由を並べたカード図

介護現場のリーダーがつまずくのは、本人の力不足ではなく、選ばれ方と任され方に原因があることがほとんどです。

よくある理由は次の3つです。

  1. 現場で一番できる人が選ばれる:介助の腕と、人を育てる力は別のもの
  2. 教わらないまま任される:面談や声かけのやり方を学ぶ機会がない
  3. 上と現場の板挟みになる:施設の方針と職員の不満の両方を一人で受け止める

介助がうまい人ほど、自分でやってしまう

リーダーに選ばれるのは、利用者さんへの対応が丁寧で、記録も早く、急な対応にも慌てない人が多いでしょう。

ただ、仕事ができる人ほど、後輩のやり方がもどかしく見えて「私がやるからいいよ」と自分で引き取ってしまいがちです。

そのほうがその場は早く回りますが、後輩は経験を積めず、「任せてもらえない」「信用されていない」と感じるようになります。

リーダーになったら、自分が介助をする量を少しずつ減らし、職員がうまくできるように関わる量を増やしていく。この切り替えが、最初の大きな壁です。

面談のやり方は、誰も教えてくれない

介助の技術は、研修や先輩の手本で学ぶ機会があります。

一方で、職員と1対1で話す面談や、落ち込んでいる職員への声かけは、ほとんどの場合「自分が受けてきたやり方」をなんとなく真似するしかありません。

その結果、面談が「評価を伝える場」や「注意をする場」になり、職員にとっては気の重い時間になってしまいます。

板挟みを一人で抱えると、リーダーが先に辞める

人手が足りない中で、施設からは「シフトを埋めてほしい」「記録をもれなく」と求められ、職員からは「休みが取れない」「あの人とは組みたくない」と言われる。

リーダーはその両方を受け止める立場にいます。

この板挟みを誰にも相談できないまま抱えると、職員より先にリーダー本人が疲れ切って辞めてしまうこともあります。

リーダーを育てることは、リーダーを支える仕組みをつくることとセットで考える必要があります。

2. リーダーに最初に渡す4つの役割

声をかける・話を聞く・任せる・上とつなぐ、の4つの役割を並べたカード図

リーダーを任せるときは、「何をする人なのか」を言葉にして渡すことが大切です。

「現場をまとめて」「みんなの手本になって」だけでは、何から手をつければいいか分かりません。

最初に渡す役割は、次の4つに絞ると動きやすくなります。

  1. 声をかける:出勤した職員一人ひとりに、自分から一言かける
  2. 話を聞く:月に一度、職員と1対1で話す時間をとる
  3. 任せる:仕事を引き取らず、やり方とゴールを伝えて任せる
  4. 上とつなぐ:職員の困りごとを施設長や主任に届け、決まったことを職員に返す

どれも、介助の腕前とは関係なく、意識すれば明日から始められることです。

「手本になる」より先に「声をかける」

リーダーに「みんなの手本になってほしい」と伝える施設は多いですが、手本を見せるだけでは、職員の不安や不満は見えてきません。

まずは毎日、出勤した職員に自分から声をかけることを役割として渡します。

声をかけ続けていると、「今日は元気がないな」「最近、あの人と組むのを避けているな」といった小さな変化に気づけるようになります。

「上とつなぐ」は、返すところまでが役割

職員の困りごとを施設長に伝えても、その結果が職員に返ってこなければ、職員は「言っても何も変わらない」と感じます。

すぐに解決できないことでも、「施設長に伝えて、来月のシフトから考えてもらうことになった」「今回は難しいと言われた。理由はこうだった」と、決まったことを職員に返すところまでをリーダーの役割にしておきます。

仕事を任せるときの具体的な手順は、マネージャー育成研修の選び方の中でも触れています。

3. 職員が辞めない面談の進め方

時間と場所を決める・最近の様子を聞く・困りごとを1つ聞く・次にやることを1つ決める、の4枚のカードを矢印でつないだ図

介護現場の面談は、長い時間をとる必要はありません。

シフト勤務の中でも、15分の面談を、決まった流れで定期的に続けることのほうが、年に一度の長い面談よりも職員の変化に気づけます。

流れは次の4つです。

  1. 時間と場所を決める:夜勤明けや休憩の直前は避け、ほかの職員や利用者さんに聞こえない場所で
  2. 最近の様子を聞く:仕事の話の前に、体調や生活のことを短く聞く
  3. 困りごとを1つ聞く:「全部」ではなく「1つ」に絞って聞く
  4. 次にやることを1つ決める:リーダーがやること・職員がやることを1つずつ決めて終える

面談のタイミングは、職員の体力に合わせる

夜勤明けの職員を呼び止めて面談をすると、疲れているうえに早く帰りたい気持ちが強く、本音は出てきません。

日勤の業務が落ち着いた時間帯や、出勤してすぐの申し送り前など、職員に余裕のある時間を選びます。

面談の日時はシフト表を作るときに先に入れておくと、「忙しくて今月もできなかった」を防げます。

「何か困っていることある?」では答えにくい

範囲の広い質問には、多くの職員が「特にないです」と答えます。

場面を絞って、答えやすい形で聞きます。

POINT・「最近の夜勤で、一番しんどかった場面はどこ?」
・「組む相手によって、やりにくいと感じることはある?」
・「利用者さんの対応で、迷ったまま終わっているものはある?」
・「もし1つだけ変えられるとしたら、何を変えたい?」

会話の例を見てみましょう。

会話例リーダー:「今日は15分だけ時間をもらったね。最近、体調はどう?」
職員:「まあ、なんとか。ちょっと寝不足ですけど」
リーダー:「そっか。最近の夜勤で、一番しんどかった場面ってどこだった?」
職員:「……2時ごろのナースコールが重なったときですね。一人で回らなくて」
リーダー:「それは大変だったね。そのとき、誰かに頼れそうだった?」
職員:「隣のユニットに声をかけていいのか、分からなくて」
リーダー:「教えてくれてありがとう。隣のユニットと助け合っていいか、私から主任に確認して、来週までに返事するね。○○さんは、次に重なったら記録に時間だけ残しておいてもらえる?」

リーダーが答えを出すことよりも、職員が「この人に話せば何かが動く」と感じられることが、辞めない職場づくりにつながります。

面談で使える質問は、1on1で話すことがないときの質問集でも場面別に紹介しています。

4. 場面別の声かけのコツ

出勤したとき・ミスのあと・辞めたいと言われたときなどの場面で、言いがちな言葉と伝わりやすい言葉を左右に比べた図

面談は月に一度でも、声かけは毎日の積み重ねです。

介護現場でよくある5つの場面について、言いがちな言葉と、伝わりやすい言葉を並べました。

場面 言いがちな言葉 伝わりやすい言葉
出勤したとき 「今日、人が足りないから頑張って」 「おはよう、来てくれて助かる。今日は○○さんと一緒だね」
申し送りのとき 「何か質問ある?ないね」 「今日いちばん気になる利用者さんは誰?」
ミスのあと 「なんでちゃんと確認しなかったの」 「報告してくれてありがとう。どこで確認が抜けたか、一緒に見よう」
うまくいったとき 「よかったね」で終わる 「さっきの声かけで、○○さんが落ち着いたね。あの言い方、よかった」
「辞めたい」と言われたとき 「今辞められたら困る」 「話してくれてありがとう。そう思うようになったきっかけを聞かせてほしい」

うまくいったときは、行動を具体的に言葉にする

介護の仕事は、うまくいったときほど何も起きないので、誰からも声をかけられないまま一日が終わりがちです。

「よかったね」だけでなく、「どの行動が」「利用者さんにどう効いたか」を言葉にすると、職員は自分の仕事の意味を感じられます。

褒め方と注意の仕方は、部下に伝わる「褒め方」と「注意の仕方」で詳しく紹介しています。

ミスのあとは、まず報告してくれたことを受け止める

ミスを責められた職員は、次から報告をためらうようになります。

介護現場では、小さなヒヤリハットが報告されないことが、利用者さんの安全に直結します。

最初の一言を「ありがとう」にするだけで、報告が上がりやすい職場になります。

「辞めたい」は、引き止めるより先に理由を聞く

「辞めたい」と言われると、人手が足りない現場ほど「困る」という気持ちが先に出てしまいます。

けれども、引き止めの言葉から入ると、職員は「自分のことより人手の心配をしている」と受け取ります。

まずは理由を聞き、リーダーの立場で変えられることと、変えられないことを分けて伝えます。

変えられないことでも、正直に伝えたうえで一緒に考える姿勢が、職員の判断を変えることがあります。

5. 施設としてリーダーを支える仕組み

リーダー一人の頑張りに任せていると、育成は続きません。

施設長や主任の立場でできることは、次の3つです。

  1. リーダーにも面談をする:リーダー自身が困りごとを話せる相手と時間をつくる
  2. 面談の時間を業務として確保する:シフトの中に面談の時間を先に組み込む
  3. リーダー同士で練習する場をつくる:面談や声かけを、リーダー同士でロールプレイする

特に1つ目は見落とされがちです。

リーダーが職員の話を聞けるようになるには、リーダー自身が誰かに話を聞いてもらう経験が欠かせません。

介護現場でのコーチングの使い方は、介護現場で使える、職員のやる気と成長を引き出すコーチングの技術でも紹介しています。

よくある質問

Q. 人手が足りず、面談の時間がとれません。

最初から全員と長く話す必要はありません。

1人15分を月に1回、シフトを組むときに先に入れておくところから始めてください。

それも難しい場合は、申し送りの前後に2〜3分だけ「最近どう?」と1対1で話す時間をつくるだけでも、職員の変化に気づきやすくなります。

Q. 自分より年上・経験の長い職員に、どう声をかければいいですか?

介護現場では、年上の職員や経験の長い職員のリーダーになることがよくあります。

指示よりも相談の形で関わると、関係を崩さずに済みます。

「○○さんなら、この利用者さんの対応はどうしますか?」と経験を頼る聞き方をすると、相手も協力しやすくなります。

Q. 面談で聞いた不満を、施設長に伝えてもいいですか?

伝える前に、職員本人に「この話、施設長に伝えてもいい?名前は出さないほうがいい?」と確認してください。

本人の了承なしに伝わると、職員は二度と本音を話さなくなります。

Q. リーダーの育成を、施設の外の研修に頼むこともできますか?

できます。

面談や声かけは、知識として読むだけでは身につきにくく、実際の会話で練習してはじめて変わる力です。

外部の研修を選ぶときは、ロールプレイなど実際に話す練習の時間がどれくらいあるかを確かめてください。

まとめ:リーダーの一言が、職員が続けるかどうかを決める

介護現場のリーダーがつまずくのは、現場で一番できる人が、面談や声かけを教わらないまま任されるからです。

リーダーには「声をかける」「話を聞く」「任せる」「上とつなぐ」の4つの役割を言葉にして渡し、15分の面談を決まった流れで続けてもらいます。

毎日の声かけは、出勤時・申し送り・ミスのあと・うまくいったとき・「辞めたい」と言われたときの型を持っておくだけで、職員の受け取り方が変わります。

明日の朝、出勤してきた職員に「来てくれて助かる」と一言かけるところから始めてみてください。

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この記事の編集者
加藤 巧海
加藤 巧海(かとう たくみ)
株式会社FIRST COACH 代表取締役。認定プロコーチ。エグゼクティブ・コーチングを中心に、個人と組織のリーダーシップを高める支援をしている。
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