コラム

営業にコーチングが効く理由|売り込まずに選ばれる質問の力と、営業チームへの取り入れ方

「商品の説明はうまいのに、なぜか決まらない」。

営業の現場で、こうした悩みを抱えるマネージャーは少なくありません。

決まらない商談の多くは、説明の上手下手より「お客様の本当の課題を聞けていない」ことでつまずいています。

そこで役に立つのが、相手に考えてもらい、本人の言葉で答えを出してもらうコーチングの考え方です。

この記事では、コーチングが営業に効く理由、商談で使える質問の型と言い換え例、そして営業マネージャーが同行と振り返りで部下を育てる方法を整理します。

この記事の要点・お客様は「説明された理由」より「自分で気づいた理由」で買う。だから質問で課題を引き出す営業が強い
・質問は「現状 → 困りごと → 影響 → 理想」の順に深めると、本当の課題にたどり着きやすい
・営業マネージャーは同行で口を出さず、振り返りを「質問から始める」ことで部下が自分で考える力を育てられる
・研修で型をそろえ、同行と振り返りで毎週使うことで、コーチングがチームの習慣になる

1. 営業にコーチングが効く理由

売り込む営業と質問で引き出す営業を、話す割合・課題の出どころ・提案の受け取られ方・商談のあとの4点で比べた図

営業にコーチングが効くのは、お客様が「説明された理由」より「自分で気づいた理由」で動くからです。

どれだけよい商品でも、お客様が「今の自分に必要だ」と感じていなければ、説明は売り込みに聞こえてしまいます。

反対に、質問に答えるうちにお客様自身が「たしかに、ここが困っている」と言葉にできたとき、提案は「押し付け」ではなく「解決策」として受け取られます。

コーチングは、相手の話を聴き、問いかけ、本人に考えを言葉にしてもらう関わり方です。

これは営業のヒアリングとほぼ同じ動きなので、そのまま商談に持ち込むことができます。

比べる点 売り込む営業 質問で引き出す営業
話す割合 営業が話している時間が長い お客様が話している時間が長い
課題の出どころ 営業が「こうですよね」と決めつける お客様が自分の言葉で話す
提案の受け取られ方 売り込みに聞こえやすい 自分の課題への解決策に聞こえる
商談のあと 「検討します」で止まりやすい 次に何を決めるかが具体的になる

もちろん、質問だけで商談が進むわけではありません。

質問に正直に答えてもらうには、その前に「この人になら話してもいい」と思ってもらう関係づくりが必要です。

関係づくりの具体的な方法は、営業で使えるラポール形成テクニック5選で詳しく紹介しています。

この記事では、関係ができたあとに「本当の課題を引き出す質問」と、「その質問ができる部下を育てる方法」の2つに絞ってお伝えします。

2. 本当の課題を引き出す質問の型

商談で本当の課題を引き出す質問を、現状・困りごと・影響・理想の4段階の順番で示したフロー図

本当の課題を引き出すには、質問を「現状 → 困りごと → 影響 → 理想」の順に深めていくのが近道です。

お客様が最初に口にする困りごとは、たいてい表面の症状です。

「人手が足りない」「問い合わせが少ない」といった言葉の奥に、本人もまだ言葉にしていない本当の課題が隠れています。

この順番は、営業の世界で広く知られている「SPIN話法」(状況・問題・示唆・解決の順に質問する方法。ニール・ラッカム氏が提唱)とも重なる考え方です。

  1. 現状を聞く:いま、どのように進めているか。事実を確かめる
  2. 困りごとを聞く:その中で、うまくいっていないことは何か
  3. 影響を聞く:それが続くと、誰に・何に響くか
  4. 理想を聞く:どうなっていたら「解決した」と言えるか

「影響」の質問で、課題の重さが変わる

4つの中で、多くの営業が飛ばしてしまうのが「影響」の質問です。

困りごとを聞いたらすぐに商品の説明に入りたくなりますが、そこで一歩止まります。

「それが続くと、どこに一番響きますか」と聞くと、お客様は困りごとの大きさを自分で測り直します。

「人手が足りない」が「このままだと来年の新店が開けない」に変わったとき、課題は「いつか考えたいこと」から「今決めるべきこと」になります。

「理想」の質問で、提案の的がそろう

最後に「どうなっていたら解決したと言えますか」と聞くと、提案で外してはいけない条件がはっきりします。

お客様自身が描いた理想に合わせて提案すれば、「それなら、うちに合いそうです」と受け取ってもらいやすくなります。

商談で使える質問の言い換え例

同じことを聞くにも、言い方ひとつでお客様が話してくれる量は大きく変わります。

ポイントは、「はい・いいえ」で終わる質問を、相手が自分の言葉で答えられる質問に言い換えることです。

よくある聞き方 言い換えた聞き方 変わること
「何かお困りのことはありますか?」 「最近、時間がかかっていると感じる作業はどれですか?」 漠然とした問いが、具体的な場面の話になる
「コストは気になりますか?」 「今の進め方で、一番もったいないと感じるのはどこですか?」 値段の話ではなく、ムダの話から入れる
「導入すれば楽になりますよ」 「もしその作業がなくなったら、空いた時間で何をしたいですか?」 お客様が自分で効果を思い描く
「ご検討いただけますか?」 「決めるにあたって、ほかにどなたのご意見が必要ですか?」 次の段取りと決める人が見える
「何か質問はありますか?」 「ここまでで、社内で説明しにくそうな点はありますか?」 お客様が社内で困る点を先に拾える

商談の会話例

たとえば、業務システムを提案する場面で考えてみます。

営業:「今、受注の管理はどのように進めていますか?」

お客様:「エクセルで管理して、担当者が毎日更新しています。」

営業:「その中で、手間がかかっていると感じるのはどのあたりですか?」

お客様:「担当者が休むと、誰も最新の状況が分からなくなることですね。」

営業:「それが続くと、どこに一番響きそうですか?」

お客様:「お客様への納期の回答が遅れて、クレームになったことがあります。」

営業:「どうなっていたら、安心して任せられると思いますか?」

お客様:「誰が見ても、今の状況がすぐ分かる状態ですね。」

この流れでは、営業は一度も商品の説明をしていません。

それでも、お客様は「担当者が休むと状況が分からない」「納期の回答が遅れる」という本当の課題を自分の言葉で話しています。

ここで初めて「誰が見ても状況が分かる仕組み」として提案すれば、お客様の理想にそのまま答える形になります。

POINT・質問は「はい・いいえ」で終わらせず、相手が具体的な場面を話せる形にする
・お客様の答えを、自分の言葉に言い換えずにそのまま提案に使う
・聞いたあとの「沈黙」を怖がらない。考えている時間に本音が出てくる

質問と並んで大切な「聴く」技術は、コーチングの基本スキル「聴く」「質問する」「伝える」で整理しています。

3. 営業マネージャーが部下を育てる「同行と振り返り」

営業マネージャーが同行と振り返りで部下を育てる4つの型(目的を1つ決める・口を出さない・質問から始める・次の1手は本人が決める)を並べたカード図

営業マネージャーが部下を育てる一番の場面は、商談の同行と、そのあとの振り返りです。

ところが多くの現場では、同行中に上司が話を引き取ってしまい、振り返りも「あそこはこう言うべきだった」という指摘で終わりがちです。

これでは、部下は「上司がいれば決まる」ことは学べても、「自分で考えて決める力」は育ちません。

コーチングを取り入れた同行と振り返りは、次の4つで組み立てます。

  1. 同行前に目的を1つ決める:「今日は影響の質問を2回入れる」など、見るところを絞る
  2. 同行中は口を出さない:商談が大きく崩れない限り、部下に最後まで任せる
  3. 振り返りは質問から始める:上司の感想より先に、部下自身の見立てを聞く
  4. 次の1手は本人が決める:上司が答えを渡さず、次の商談で試すことを部下に決めてもらう

指摘で終わる振り返りの例

上司:「今日の商談、価格の話をするのが早すぎたね。」

部下:「すみません、気をつけます。」

上司:「次はもっとヒアリングしてから提案して。」

部下:「分かりました。」

上司の言っていることは正しいのですが、部下は「何を、どう変えればいいか」を自分で考えていません。

次の商談でも、同じ場面で同じように焦ってしまう可能性が高いままです。

質問から始める振り返りの例

上司:「今日の商談、自分で点数をつけるなら何点くらい?」

部下:「60点くらいです。」

上司:「60点の中で、うまくいったのはどこだった?」

部下:「最初の現状の質問で、先方の課長がよく話してくれたところです。」

上司:「残りの40点は、どこで失ったと思う?」

部下:「価格を聞かれて、すぐに答えてしまったところです。そこから先方が慎重になった気がします。」

上司:「もう一度あの場面に戻れるとしたら、どうしたい?」

部下:「価格の前に、今どれくらい手間がかかっているかを聞きたいです。」

上司:「いいね。次の商談では、それを1回試してみようか。」

こちらの振り返りでは、上司は答えを言っていません。

それでも部下は、自分で課題を見つけ、次に試すことまで決めています。

自分で決めたことは、言われたことより実行されやすいのは、お客様も部下も同じです。

教えるべき場面もある

ただし、何でも質問で返せばよいわけではありません。

商品知識や社内のルールなど、知らなければ答えようがないことは、はっきり教えたほうが早く伝わります。

新人には教える比重を多めにし、経験が増えるほど質問の比重を上げていく、という使い分けが現実的です。

教えるか問いかけるかの使い分けは、コーチングとティーチングの違いで詳しく解説しています。

4. 営業チームにコーチングを取り入れる進め方

コーチングをチームに根づかせるには、研修で型をそろえ、同行と振り返りの中で毎週使うことが欠かせません。

研修を一度受けただけでは、現場に戻った翌週にはいつもの話し方に戻ってしまいます。

大切なのは、新しい仕事を増やすのではなく、すでにある商談・同行・営業会議の中に質問を組み込むことです。

進める順番 やることの例
① 型をそろえる 「現状 → 困りごと → 影響 → 理想」の質問の順番と、言い換え例をチーム全員で共有する
② マネージャーから始める まず営業マネージャーが、振り返りを質問から始める関わり方を身につける
③ 毎週の場に組み込む 同行のあとの振り返りや営業会議で、「影響の質問は入れられたか」を確かめる
④ うまくいった質問を集める お客様がよく話してくれた質問を持ち寄り、チームの言い回しとして育てる

特に大切なのは、②のマネージャーから始めることです。

部下だけに研修を受けさせても、上司の振り返りが指摘のままでは、部下は質問を使う意味を感じられません。

上司が質問で関わる姿を見せることが、チームにとって一番の手本になります。

管理職の関わり方を広く学びたい場合は、管理職のためのコーチング入門も参考にしてください。

よくある質問

質問ばかりすると、お客様に「尋問されている」と感じられませんか?

質問の数より、答えへの反応で印象が変わります。

お客様の答えを受け止め、「それは大変でしたね」「つまり、こういうことですね」と返してから次に進めば、尋問のようには感じられません。

また、最初から深い質問をせず、答えやすい現状の質問から始めることも大切です。

トップ営業のやり方を、そのまま真似させるのではだめですか?

トップ営業の言い回しを共有すること自体は役に立ちます。

ただし、なぜその場面でその質問をしたのかが分からないまま真似をすると、お客様が違う反応をしたときに対応できません。

振り返りの中で「なぜその質問を選んだか」を本人に考えてもらうことで、真似が自分の力になっていきます。

数字に追われている時期でも、コーチングを取り入れる余裕はありますか?

新しい時間を取る必要はありません。

同行後の振り返りの最初の一言を「どうだった?」という質問に変えるだけでも始められます。

数字が厳しい時期ほど、部下が自分で考えて動ける状態にしておくことが、マネージャーの負担を減らすことにつながります。

営業チーム向けの研修は、オンラインでも受けられますか?

FIRST COACHはオンラインを中心にコーチングをお伝えしているスクールのため、オンラインでの実施もご相談いただけます。

拠点が分かれている営業組織や、外回りの多いチームでも参加しやすいのが利点です。

内容や進め方は、組織の状況に合わせてご相談ください。

まとめ:営業の強さは「何を話すか」より「何を聞くか」で決まる

売り込まずに選ばれる営業は、説明がうまい人ではなく、お客様に本当の課題を話してもらえる人です。

「現状 → 困りごと → 影響 → 理想」の順に質問を深めれば、お客様は自分の言葉で課題に気づき、提案を解決策として受け取ってくれます。

そして、その質問ができる部下を育てるのは、同行と振り返りでのマネージャーの関わり方です。

答えを渡す振り返りから、質問で考えてもらう振り返りに変えることで、チーム全体の営業力が底上げされていきます。

FIRST COACHでは、営業マネージャーや管理職向けのコーチング研修・1on1研修をはじめ、組織の状況に合わせた企業向けコーチングをご相談いただけます。

「うちの営業チームではどこから始めればいいか」から、無料相談でお気軽にお問い合わせください。

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この記事の編集者
加藤 巧海
加藤 巧海(かとう たくみ)
株式会社FIRST COACH 代表取締役。認定プロコーチ。エグゼクティブ・コーチングを中心に、個人と組織のリーダーシップを高める支援をしている。
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