コラム

コーチングで組織を変える進め方|社員が自分から動くチームは管理職から始まる

「指示を待つ社員ばかりで、自分から動く人が育たない」。

経営者や人事の方から、こうした相談を受けることが増えています。

そこで「コーチングを入れてみよう」と考える会社は多いのですが、研修を一度実施しただけで、現場がほとんど変わらなかったという話もよく聞きます。

原因の多くは、コーチングの中身より「どこから始め、どう続けるか」という導入の順番にあります。

この記事では、経営者・人事責任者が自社にコーチングを取り入れるときの進め方を、始める場所、管理職から始める理由、定着させる仕組み、よくある失敗の順に整理します。

この記事の要点・社員が自分から動かないのは、性格より「自分で考える場面が職場にない」ことが大きい
・コーチングは全社一斉より、部下と毎日話す管理職から始めるほうが現場に届く
・研修は入口にすぎない。1on1や会議の型に組み込み、上司が使い続ける仕組みで定着する
・「研修して終わり」「管理職に丸投げ」「すぐ成果を求める」が、よくある失敗の三つ

1. 社員が自分から動かない本当の理由

社員が自分から動かないのは、やる気や性格の問題より、職場に「自分で考える場面」が少ないことが大きな理由です。

多くの職場では、上司が答えを持っていて、部下はそれを実行する、という流れが当たり前になっています。

この流れは仕事を速く回すには便利ですが、部下からすると「考えても最後は上司が決める」状態です。

そうした経験が積み重なると、部下は考える前に聞くようになり、上司はますます答えを出すようになります。

たとえば、こんな会話に覚えはないでしょうか。

よくある会話部下「お客様から納期を早めてほしいと言われました。どうしましょう」
上司「工場に確認して、無理なら来週の頭で返事して」
部下「分かりました」

上司は正しく、早く答えています。

ただ、この会話の中で部下が自分の頭で考えた場面は一つもありません。

同じ場面を、コーチングの関わり方に変えると次のようになります。

問いかける会話部下「お客様から納期を早めてほしいと言われました。どうしましょう」
上司「あなたなら、どう返事をするのがいいと思う?」
部下「工場の空きを確認して、無理なら一部だけ先に納める案を出したいです」
上司「いいね。それでいこう。工場への確認で困ったら声をかけて」

上司がしたことは、答えを言う前に一つ問いを挟んだだけです。

それでも部下は「自分の案が採用された」経験を一つ手にします。

主体性は、こうした小さな「自分で決めた経験」の積み重ねで育つものです。

つまり組織を変えるには、社員を変えようとするより、社員と毎日話す人の関わり方を変えるほうが近道になります。

2. どこから始めるか:全社一斉より管理職から

全社一斉で始める場合と管理職から始める場合を、現場での使われ方・広がり方・効果の見えやすさで比べた図

コーチングを組織に入れるなら、まず管理職から始めるのが基本です。

全社員向けの研修から入る会社もありますが、受けた社員が職場に戻ったとき、上司の関わり方が以前のままだと、学んだことを使う場面がありません。

一方、管理職が変わると、その下にいる部下全員の「毎日の会話」が変わります。

一人の管理職の変化が、チーム全体に広がるということです。

比べる点 全社一斉で始める 管理職から始める
現場での使われ方 職場に戻ると使う場面がなく、忘れられやすい 部下との毎日の会話ですぐに使える
広がり方 一人ひとりの意欲に左右される 一人の上司からチーム全体へ広がる
効果の見えやすさ 何が変わったか追いにくい チームの会話や会議の変化で確かめやすい

経営者が先に「答えを言わない」姿を見せる

管理職から始めるといっても、経営者や役員が関わらなくてよいわけではありません。

経営会議で社長がすぐに結論を言ってしまう会社では、管理職も「結局は上が決める」と感じます。

導入の最初の数か月だけでも、経営者自身が管理職に「あなたはどう考える?」と聞く場面を意識して増やすと、取り組みの本気度が社内に伝わります。

最初は一部のチームで小さく試す

いきなり全管理職を対象にするより、意欲のある管理職の数名、または一つの部署から試すほうが進めやすくなります。

うまくいったチームの具体的な変化を社内で共有できれば、ほかの管理職も「自分もやってみよう」と思いやすくなります。

管理職がまず身につけたい基本は、管理職のためのコーチング入門でも詳しく紹介しています。

3. 導入の進め方:5つのステップ

困りごとを言葉にする、対象を絞る、研修で型を学ぶ、現場で使う場を決める、振り返って広げるの5ステップを矢印でつないだフロー図

コーチングの導入は、研修を申し込む前の準備で半分が決まります。

次の5つの順番で進めると、研修が「受けて終わり」になりにくくなります。

  1. 困りごとを言葉にする:「指示待ちが多い」「会議で意見が出ない」など、変えたい場面を具体的に決める
  2. 対象を絞る:最初に取り組む管理職やチームを決める
  3. 研修で型を学ぶ:聴く・問いかける・任せるの基本を、ロールプレイで体に入れる
  4. 現場で使う場を決める:1on1や週次の会議など、学んだことを使う時間をあらかじめ予定に入れる
  5. 振り返って広げる:数か月後に変化を確かめ、うまくいった型をほかのチームへ広げる

ステップ1で「変えたい場面」を決めておく

一番大切なのは、最初のステップです。

「主体性を高めたい」という目標のままだと、何が変わったのか誰にも分かりません。

「週次の会議で、部下から改善案が一つも出ない」「若手が困ったときに、自分の案を持たずに相談に来る」のように、目で見える場面まで落としておきましょう。

場面が決まっていれば、研修の中身もその場面に合わせて組めますし、数か月後に変化を確かめるときの物差しにもなります。

ステップ4で「使う時間」を先に予定に入れる

研修のあと、学んだことが使われない一番の理由は、使う時間がないことです。

たとえば「研修の翌週から、各管理職が部下と月1回・30分の1on1を行う」と、研修の前に決めておきます。

使う場面が先に決まっていると、管理職も研修を「自分の明日の仕事の準備」として受けられます。

1on1の具体的な進め方は、1on1ミーティングの進め方(無料テンプレ付)で、会話の流れごと紹介しています。

ステップ5で「うまくいった会話」を集めて広げる

数か月たったら、最初に取り組んだチームの変化を振り返ります。

このとき役に立つのが、「部下に任せたらうまくいった会話」の具体例です。

「この問いを投げたら、若手が自分から工程の見直し案を出してきた」といった話は、ほかの管理職にとって何よりの手本になります。

人事が中心になってこうした会話を集め、次に取り組むチームの研修や社内の共有会で使うと、取り組みが会社の言葉として広がっていきます。

POINT・研修の前に「変えたい場面」と「使う時間」を決めておく
・この2つがない研修は、内容がよくても現場に残りにくい

4. 定着させる3つの仕組み

1on1、会議、管理職の振り返りの3つを、コーチングを定着させる仕組みとして並べたカード図

コーチングを組織に根づかせるには、個人の頑張りに任せず、仕事の流れの中に組み込むことが必要です。

特に効くのは、次の3つの仕組みです。

① 1on1を「問いから始める場」にする

1on1は、上司がコーチングを使う一番の練習の場です。

ただし、進み具合の確認だけで終わると、普段の打ち合わせと変わりません。

最初の一言を「今週、一番手応えがあったことは何?」「いま一番迷っていることは何?」のような問いにすると決めるだけで、部下が話す時間が自然に増えます。

② 会議に「先に部下が話す」決まりをつくる

会議では、上司が最初に意見を言うと、部下はそれに合わせがちです。

「議題ごとに、まず担当者が自分の案を話し、上司は最後に話す」という順番を決めておくと、部下が考えてから会議に来るようになります。

上司は、案の良し悪しをすぐに判断する前に「その案のいいところはどこ?」「心配な点はある?」と問いを返すのがおすすめです。

③ 管理職同士で振り返る場を持つ

コーチングの関わり方は、一人で続けていると元のやり方に戻りやすいものです。

月に1回でも管理職が集まり、「今月、部下に任せてうまくいったこと」「答えを言ってしまった場面」を共有する時間をつくると、互いの工夫が学びになります。

この場で大切なのは、できなかったことを責めないことです。

管理職同士の会話そのものを、問いかけ合う場にしておくと、上から下まで同じ関わり方がそろっていきます。

仕組み 明日からできる一歩
1on1 最初の一言を「一番手応えがあったことは何?」にする
会議 担当者が先に案を話し、上司は最後に話す順番にする
管理職の振り返り 月1回、任せてうまくいった場面を共有する

5. よくある失敗と避け方

コーチングの導入でつまずく会社には、いくつか共通する失敗があります。

始める前に知っておくだけで、多くは避けられます。

研修をして終わりにしてしまう

研修の直後は、受けた管理職も前向きになります。

しかし、使う場面と振り返る場がないと、忙しさの中で数週間もすれば元のやり方に戻ります。

研修は入口と考え、前の章で紹介した1on1・会議・振り返りの仕組みとセットで計画しましょう。

管理職に「やっておいて」と丸投げする

管理職の多くは、自分の数字も持ちながら部下を見ています。

その上で「これからはコーチングで部下を育てて」と伝えるだけだと、仕事が増えたと受け取られてしまいます。

1on1の時間を勤務時間の中で確保する、会議の進め方を会社として変えるなど、管理職が使いやすくなる環境を経営側が整えることが大切です。

すぐに目に見える成果を求める

関わり方の変化が、部下の行動の変化として表れるまでには時間がかかります。

導入から1か月で売上や離職の数字を求めると、管理職は「やっぱり答えを言ったほうが早い」と元に戻ってしまいます。

最初の数か月は「会議で部下から出た案の数」「1on1で部下が話していた時間」のように、会話の変化を見るのがおすすめです。

何でも「問いかけ」で済ませようとする

コーチングを学んだばかりの管理職ほど、どんな場面でも質問で返そうとしがちです。

しかし、入社したばかりの社員や、期限が迫ったトラブルの場面では、答えややり方をはっきり伝えるほうが親切なこともあります。

研修では「教える場面」と「問いかける場面」の見分け方まで、管理職と一緒に整理しておくと安心です。

POINT・研修は入口。仕組みとセットで計画する
・管理職に丸投げせず、時間と場を会社が用意する
・最初の数か月は、数字より会話の変化を見る

よくある質問

コーチングの導入は、何人くらいの会社から検討できますか?

人数よりも、「指示待ちが多い」「会議で意見が出ない」といった困りごとがあるかどうかで判断するのがおすすめです。

管理職が数名の会社でも、その数名の関わり方が変わればチーム全体の会話が変わります。

まずは一部の管理職から始め、変化を見て広げる進め方もできます。

管理職が忙しく、コーチングを学ぶ時間がとれません。

忙しい管理職ほど、部下が自分で考えて動けるようになることの恩恵は大きくなります。

研修の時間を確保するときは、あわせて「学んだことを使う1on1の時間」も勤務時間の中に入れておくと、仕事が増えたと感じにくくなります。

オンラインの研修なら移動の時間がかからず、拠点が分かれている会社でも参加しやすくなります。

効果はどのように確かめればよいですか?

導入前に決めた「変えたい場面」がどう変わったかで確かめるのが分かりやすい方法です。

たとえば、会議で部下から出た案の数や、相談に来るときに部下が自分の案を持ってくるようになったかなどを、管理職同士の振り返りで共有します。

あわせて、部下に短いアンケートで「上司との会話で、自分の考えを話せているか」を聞いてみるのもよい方法です。

社内で進めるのと、外部に研修を頼むのはどちらがよいですか?

社内にコーチングを学んだ人がいれば、その人を中心に進める方法もあります。

ただ、同じ社内の立場から上司の関わり方を指摘するのは、遠慮が生まれやすいものです。

最初の型づくりは外部の研修で行い、その後の振り返りの場は社内で回す、という分け方にすると進めやすくなります。

コーチング研修に助成金は使えますか?

研修の内容や実施の形によっては、人材開発支援助成金などの対象になり得ます。

ただし、要件や手続きは制度ごとに細かく決まっているため、申請を考える場合は事前に管轄の労働局へご確認ください。

まとめ:組織を変えるのは、上司の「一つの問い」から

社員が自分から動くチームは、社員を変えようとするより、社員と毎日話す管理職の関わり方を変えることで生まれます。

そのために、全社一斉より管理職から始め、研修の前に「変えたい場面」と「使う時間」を決めておきましょう。

研修のあとは、1on1・会議・管理職の振り返りという仕組みの中で、問いかける関わり方を使い続けることが定着の鍵です。

評価と切り離した場で部下の本音を聞きたい場合は、1on1を外部のコーチに任せるという選択肢もあわせて検討してみてください。

FIRST COACHでは、管理職向けの1on1研修をはじめ、組織の状況に合わせた企業向けのコーチング研修をご相談いただけます。

「うちの会社なら、どの管理職から始めればいいか」という段階から、無料でご相談を承っています。

まずはお気軽にお問い合わせください。

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この記事の編集者
加藤 巧海
加藤 巧海(かとう たくみ)
株式会社FIRST COACH 代表取締役。認定プロコーチ。エグゼクティブ・コーチングを中心に、個人と組織のリーダーシップを高める支援をしている。
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