「コーチングって、結局何のためにやるものなの?」。
興味はあるのに一歩が出ない人ほど、この問いで止まっています。
話を聴いてもらうだけなのか、目標を達成するためなのか、部下を育てるためなのか。
実はコーチングは、「何のためにやるか」を先に決めた人ほど、得られるものが大きくなる関わり方です。
この記事では、コーチングの目的そのものと、個人の目標達成・キャリア・部下育成・組織づくりという目的別の使い方、そして最初の1回で目的を言葉にする手順を整理します。
・目的があいまいなまま始めると、毎回の話題が変わり「話して終わり」になりやすい
・使い方は目的で変わる。個人なら目標達成とキャリア、管理職なら部下育成と組織づくり
・最初の1回で「何のために」「どうなったら終わりか」を一文にしておくと、効果がぶれない
1. コーチングの目的は「自分で決めて、動ける状態」をつくること

コーチングの目的を一言で言うと、本人が自分で答えを決め、行動まで進める状態をつくることです。
国際コーチング連盟(ICF)は、コーチングを、思考を刺激する創造的なプロセスを通じて、クライアントが仕事でも私生活でも持てる可能性を最大限に発揮できるよう支える、コーチとクライアントのパートナー関係だと説明しています。
ここで大事なのは、答えを持っているのはコーチではなく本人だ、という前提です。
アドバイスやティーチングは、知っている人が答えを渡す関わり方です。
一方のコーチングは、問いかけと傾聴で本人の考えを言葉にし、「自分はどうしたいのか」「次に何をするのか」を本人に決めてもらいます。
人から渡された答えより、自分で決めた答えのほうが、人は動き続けられるからです。
| 比べる点 | アドバイス・ティーチング | コーチング |
| 答えを持つ人 | 教える側 | 本人 |
| 主な関わり方 | 説明する・やり方を示す | 問いかける・聴く |
| 向いている場面 | 知識や手順を早く身につけたいとき | 何をしたいか、どう進むかを自分で決めたいとき |
| 終わったときに残るもの | 正しいやり方 | 自分で決めた次の一歩 |
どちらが優れているかではなく、目的が違うのです。
両者の使い分けは、コーチングとティーチングの違いで詳しく比べています。
「ゴール」は本人が決めるもの
コーチングでいう「ゴール」は、会社やコーチが決める目標ではありません。
本人が「こうなりたい」と心から思える到達点のことです。
コーチングの代表的な進め方として、ジョン・ウィットモアらが広めた「GROWモデル」があります。
Goal(ゴール)、Reality(現状)、Options(選択肢)、Will(意思・行動)の頭文字をとったもので、最初に置かれているのがゴールです。
ゴールが決まって初めて、現状との差が見え、選択肢を考え、行動を決めるという流れが動き出します。
2. 「何のためにやるか」があいまいだと起きること
目的を決めずにコーチングを始めると、時間をかけても前に進んだ実感が残りにくくなります。
コーチングの効果そのものは、コーチングで得られる5つの効果で紹介しています。
ただ、同じ効果を得られるかどうかは、目的の置き方で大きく変わります。
- 毎回の話題が変わる:その日に気になったことを話して終わり、前回とのつながりがない
- 「話して終わり」になる:すっきりはするが、次の行動が決まらない
- やめどきが分からない:どうなったら目的を果たしたのか、本人にもコーチにも分からない
たとえば「なんとなく今の仕事にモヤモヤする」という状態で始めたとします。
1回目は職場の人間関係、2回目は副業の話、3回目は資格の話と、テーマが毎回移っていくことがよくあります。
どの話も本人にとっては大切ですが、目的がないと、どれを深めればいいのか決められません。
反対に「半年以内に、今の会社に残るか転職するかを自分で決める」と目的を置けば、人間関係も副業も資格も、その判断の材料として一本の線でつながります。
部下育成でも同じことが起きます。
「部下とコーチングっぽく話してみよう」とだけ決めて1on1を始めると、上司は問いを投げることに必死になり、部下は「何を聞かれているのか分からない」と戸惑います。
「この部下が、来期は一人で提案書を作れるようになる」と目的を置けば、上司が投げる問いも、部下が考えるテーマも自然に絞られます。
・目的は、最初から完璧でなくてよい。セッションを重ねながら言い直していけばよい
3. 目的別に見るコーチングの使い方

コーチングの使い方は、目的によって大きく4つに分けられます。
個人なら「目標達成」と「キャリア」、管理職なら「部下育成」と「組織づくり」です。
① 個人の目標達成:やると決めたことを最後までやり切る
資格の取得、ダイエット、仕事の成果など、やることは分かっているのに続かない人に向く使い方です。
この場合のコーチングは、目標を細かく分け、つまずく理由を一緒に見つけ、次回までの行動を決めることに時間を使います。
会話の例は次のようなものです。
コーチ「この1か月で、勉強が止まった日はどんな日でしたか?」
本人「残業があった日ですね。帰ると何もしたくなくて」
コーチ「では、残業があった日でもできる一番小さな勉強は何でしょう?」
本人「通勤電車で問題を5問だけ解く、ならできそうです」
答えは本人が出していますが、問いがあることで「続かない理由」と「続けられる形」がはっきりします。
② キャリア:自分が本当に望む働き方を決める
転職するか残るか、昇進を目指すか専門を深めるかなど、正解のない選択に向く使い方です。
ここでの目的は、行動の管理ではなく「自分は何を大事にしたいのか」をはっきりさせることです。
「どんな日の仕事が一番楽しかったか」「5年後、誰とどんな仕事をしていたいか」といった問いから、本人の価値観を言葉にしていきます。
価値観が言葉になると、選択肢を比べる物差しが自分の中にできるので、他人の意見に振り回されにくくなります。
③ 部下育成:指示を待つ部下を、自分で考える部下へ
管理職がコーチングを使う一番多い目的が、部下育成です。
すぐに答えを教えると仕事は早く進みますが、部下は「聞けば教えてもらえる」と覚え、考える機会を失います。
そこで、相談を受けたときに、まず一度だけ問いを返してみます。
部下「この資料、どう直せばいいですか?」
上司「相手に一番伝えたいことは何だと思う?」
部下「価格より、導入後の手間が減ることですね」
上司「それが一番目に入る形になっているかな?」
最終的に上司が助言してもかまいませんが、先に部下の考えを聞くだけで、部下の頭が動き始めます。
上司としての基本の関わり方は、上司が実践すべきコーチングの基本にまとめています。
④ 組織づくり:チームが自分たちで動ける状態に
コーチングの目的を一人ではなくチームに置く使い方です。
会議で上司ばかりが話している、メンバー同士で相談が起きない、という職場に向いています。
会議の冒頭で「今日この場で決めたいことは何か」をメンバーに聞く、意見が出たら「ほかの見方はある?」と広げる、といった問いの習慣をチームに持ち込みます。
上司が答えを出す場から、メンバーが考えを出し合う場に変わると、上司がいなくても物事が決まるチームに近づきます。
4. 最初の1回で目的を言葉にする手順

コーチングの目的は、最初のセッションで一文にしておくのが一番の近道です。
受ける側でも、部下に使う側でも、次の4つの手順で考えると目的がはっきりします。
手順1:今の困りごとを書き出す
まずは整理せずに、気になっていることをすべて書き出します。
「残業が多い」「後輩に任せられない」「このままでいいのか不安」など、言葉が雑でもかまいません。
手順2:「本当はどうなりたいか」を一文にする
困りごとの裏には、必ず「本当はこうなりたい」があります。
「後輩に任せられない」なら、「後輩に任せて、自分は企画の仕事に時間を使いたい」のように言い換えてみます。
手順3:「どうなったら終わりか」を決める
目的を果たしたかどうかを判断できる、目に見える状態を決めます。
「週に半日は企画の時間を取れている」「後輩が一人で顧客対応できている」など、人に見せても分かる形にすると、途中で振り返りやすくなります。
手順4:期間を区切る
「3か月」「半年」と期間を決めておくと、毎回のセッションで何を話すかが自然に決まります。
期間が終わったら、目的を果たせたかを振り返り、続けるか、目的を変えるかを決めます。
| 手順 | 書き方の例 |
| 今の困りごと | 後輩に仕事を任せられず、毎日残業している |
| 本当はどうなりたいか | 後輩に任せて、自分は企画の仕事に時間を使いたい |
| どうなったら終わりか | 週に半日、企画の時間を取れている |
| 期間 | 3か月 |
この4行がそろえば、それがそのままコーチングの目的になります。
明日やることは、まずこの表を自分の言葉で埋めてみることです。
部下と目的をそろえるときの聞き方
管理職が部下にコーチングを使うときも、同じ4つの手順で目的をそろえます。
違うのは、上司が書くのではなく、部下に答えてもらうことです。
上司「最近の仕事で、一番やりにくいと感じていることは何?」
部下「お客様からの急な依頼に振り回されて、自分の仕事が進まないことです」
上司「本当はどういう状態になったらいい?」
部下「急な依頼が来ても、午前中は自分の作業に集中できる状態です」
上司「それができているかは、どうやったら分かりそう?」
部下「毎週の作業を、締め切りの前日までに終えられていたら、ですね」
上司「じゃあ、まずは2か月それを目指して、毎月の1on1で確かめていこうか」
このように、目的を部下自身の言葉で決めておくと、1on1のたびに「目的に近づいたか」を一緒に振り返れます。
上司が決めた目標を伝えるより、部下が自分で決めた目的のほうが、行動が長続きします。
5. 目的に合わせて「受ける」か「学ぶ」かを選ぶ
目的が決まったら、コーチングを「受ける」のか「学ぶ」のかを選びます。
自分の目標達成やキャリアが目的なら、まずはコーチのセッションを受けるのが近道です。
自分の考えを他人の問いで整理する体験は、一人ではなかなか得られません。
部下育成や組織づくりが目的なら、受けるだけでなく、問いかけや傾聴を自分で使えるように学ぶことが必要になります。
とはいえ、学ぶ人ほど、先に受ける側を体験しておくと上達が早くなります。
問われる側の気持ちが分かると、部下にどんな問いを投げればよいかが見えてくるからです。
・部下やチームに使いたい → 「学ぶ」。ただし先に受ける体験をしておくと上達が早い
よくある質問
目的がはっきりしていなくても、コーチングを受けてよいですか?
はい、受けてかまいません。
「何がしたいのか分からない」という状態を整理すること自体が、最初の目的になります。
最初の数回で困りごとを書き出し、「本当はどうなりたいか」を一緒に言葉にしていけば十分です。
コーチングのゴールと、会社の目標が食い違ったらどうしますか?
コーチングのゴールは本人が決めるものなので、会社の目標とずれることはあり得ます。
その場合は、ずれていること自体を本人が自覚し、どう折り合いをつけるかを考えることがコーチングのテーマになります。
部下にコーチングを使う上司は、会社の目標を押しつける場ではないと最初に伝えておくと、部下が本音を話しやすくなります。
目的を途中で変えてもよいですか?
変えてかまいません。
話しているうちに、最初の目的より大事なことに気づくのはよくあることです。
大切なのは、変えたことを本人がはっきり意識し、新しい目的を一文で言い直すことです。
どのくらいの期間で目的を果たせますか?
目的の大きさによって変わるため、一律には言えません。
目安として、まずは3か月ほど期間を区切り、終わった時点で振り返るのがおすすめです。
期間を決めておくと、続けるか、目的を変えるかを判断しやすくなります。
まとめ:コーチングは「何のために」から始まる
コーチングの目的は、本人が自分で答えを決め、行動まで進める状態をつくることです。
その上で、「何のためにやるのか」を一文にしてから始めると、話して終わりにならず、毎回のセッションが一本の線でつながります。
個人なら目標達成とキャリア、管理職なら部下育成と組織づくりと、目的によって使い方は変わります。
まずは「今の困りごと」「本当はどうなりたいか」「どうなったら終わりか」「期間」の4行を書いてみてください。
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